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永瀬隼介「誓いの夏から」恋愛小説とは言い難い [書籍]

ちょっと毛色の違った小説が読みたくて、本屋で物色していたら、
「誓いの夏から」という単行本が、目に付いた。
2007年2月25日初版第1刷の、書き下ろし本だ。360ページ余り。

著者の永瀬隼介さんは、全く知らなかった人で、47歳のジャーナリスト、
2000年以降、小説も書いている。
この「誓いの夏から」は、永瀬さんが、初めて、恋愛をテーマにした小説。
本の帯には、著者の最高傑作、と書いてある。

さて、読んでみて、その感想は、まあ、面白い部分もあった、ということだ。
私は、剣道をやったことがないので、その実態は、分からないが、
この小説を読んでいると、たいへん荒っぽいスポーツのように思えた。
いや、スポーツなんて言っちゃあ、いけなくて、武道、なんだろうな。

主人公の十川慧一は、都立進学校の弱小剣道部の主将で、17歳の高校生だ。
同じ剣道部の広田杏子が好きで、キスまでいった仲だった。

杏子が家庭教師をしている家で、凶悪な殺人事件が起きて、一家3人は殺される。
この事件の殺人過程の描写が、かなり、残酷すぎるような気がした。
まあ、狂気の殺人鬼を描きたかったんだろうが、ちょっと、やりすぎ。

その場に居合わせた杏子は、抜き身の日本刀を振り回して、殺人鬼に抵抗するが、
なぜか、杏子は、生き残る。レイプもされなかった。
これが、この小説を通して、謎として、扱われていく。

状況を把握できなかった慧一は、杏子と不仲になり、失恋する。
というのは、警察官で、めっぽう、剣道が強い鷲見と、杏子は恋仲になったからだ。
なぜ、杏子が、同年代の慧一を捨て、年上の鷲見に接近したか、この時点では不明だ。
ただ、この失恋が、若い慧一には、その人生を変えるほど、ショックだった。

この殺人事件は迷宮入りとなり、19年は経ってしまう。
そして、吾妻という、定年前の老刑事の話が中心となる。
吾妻は、当時、この殺人事件を担当した刑事の1人だった。

しかし、この老刑事、一体、なにがしたかったのか、よく分からなかった。
出世できなかった腹いせに、警察組織を出し抜いて、溜飲を下げているのか??
人生、出世だけが全てではないのに、ちょっと、情けない、爺さんだね。

一番、驚いた展開は、高校生だった慧一が、刑事になっていることだった。
しかも、ノンキャリアの警察官になっているという。
慧一は、17歳の時に杏子に振られたことを、その後の人生の原点にしたからだ。
そして、19年前の殺人事件で、杏子が殺されなかった真相を、知りたかった。

うーん、確かに、十代で、好きになった女の子は、
一生、忘れられない、というけどね。
19年間も、男の恋心というか、謎を知りたい執念というか・・・・
どうも、著者の永瀬さんは、それを、男のロマンと言いたいような書きぶりだけど、
そこまで、自分を捨て、鷲見と結婚した杏子を、追いかけるかなあ?

それに、鷲見と結婚した、杏子の気持ちが、よく分からない。
大体、鷲見なんて、警察やめて、ヤバイ仕事に手を出した、碌なヤツじゃあないぜ。
そんな男に惚れて、結婚した杏子も、碌なヤツじゃない。
そんな自明のことが、慧一には、分からなかったのか???

杏子の生き様を見ていると、永瀬が描く理想の女性は、
ただ、男に黙ってついていく、みたいな、無知蒙昧の、あやつり人形みたいだ。
そういう自分の思考力や判断力のない女は、私は、嫌いだな。

日本刀の状態から、そして、杏子がレイプされなかった事実から、
狂気の殺人者とは違う、第三の男がいたと言う推理は、面白かったけど、
客観的には、第三の男も、杏子も、殺人者と同罪だ。
二人とも、良心の呵責は、なかったのか?  特に、杏子は???

この「誓いの夏から」という小説は、恋愛小説としては、男の単純な想いのみで、
展開する、今の時代には、深みの無い小説に終わっている。
いわゆる、ミステリー小説かというと、そんなにミステリーでもない。
刑事ものの小説か、というと、老刑事・吾妻の真情が、伝わってこない。
結局、ジャーナリストが書く、小説の限界、なのかも知れない。


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